今場所は両横綱が常に優勝争いのトップに立って、優勝決定戦という、番付通りの展開となった。誰が優勝してもおかしくないという混沌状態も面白いのだけれど、最上位の力士が優勝争いをするという形がいかに面白いかということを再確認させてくれた。
大の里が4日目に伯桜鵬に敗れただけの1敗で千秋楽まで勝ち進むと、11連勝していた豊昇龍が12日目に安青錦に切り返されて土がつき、大関琴櫻に寄り切られて連敗し、1差で追うという展開に。その琴櫻の休場で大の里が14日目に不戦勝。これで大の里のリズムに狂いが生じたか、千秋楽結びの一番では緊張で体が動かず豊昇龍に一方的に敗れて決定戦となる。決定戦では大の里の寄りに土俵際で豊昇龍が逆転の投げを打つも先に落ち、物言いはついたが大の里の勝利で決着がついた。大の里も豊昇龍もまだ感情が顔に出てしまうので、その緊張ぶりがテレビの画面を通じてもわかるくらいだった。本割で敗れて、支度部屋で気持ちを切り替えられた大の里と、優勝同点となりにわかに緊張した豊昇龍。その過程も見られた。相撲は心技体。その「心」のありようが相撲内容に現れる。まざまざとその様子を見せてもらえた。
殊勲賞は大の里に土をつけた伯桜鵬。千秋楽に勝ち越しを決めての受賞。場所中に右腕を痛めながらも勝ち越しを決めた気迫が素晴らしかった。安青錦は文句なしの技能賞。理想の角度で組んだ時の安青錦の強さを見せつけた。ただ、その角度を崩された時のもろさも見え、今後は不利な体勢になった時にどう相撲を取るかが課題となるだろう。その安青錦だが、またもおかしな条件のために殊勲賞を逃した。豊昇龍が優勝したら、殊勲賞ということは、自分の力ではどうしようもないこと。しかも豊昇龍は優勝同点で、本割で土をつけたのは安青錦と大関琴櫻だけだったのだから、無条件で殊勲賞受賞でよかったのではないか。選考委員会の見識を今場所も疑った。
最後まで優勝争いに絡んだ隆の勝が無条件で敢闘賞。前に出る相撲内容もよく、妥当な受賞。場所を盛り上げた宇良には何もなし。今場所の宇良は正攻法での勝ち星も多く、技能賞を出すべきではなかったか。テレビ解説の琴風さんが「三賞選考委員会は厳しい」と言ったが、まさにその通り。成果をあげた力士の励みになるための三賞という本来の意義をもう一度考え直してもらいたい。
やはり三賞を逃したが、王鵬がこれまでになく勝ちに対する欲を見せるようになり10勝。正代は大関昇進時を思い出させる強さを見せ、久々の10勝。負け越したが、最年長で若々しい相撲を続けている玉鷲や、力でねじ伏せる相撲を見せた高安も場所を盛り上げた功労者だ。
逆に期待を裏切ったのは大関昇進のかかった若隆景。初日は緊張で体が動かず、場所中はずっとそれを引きずった形で負け越し。大関昇進は白紙に戻った。霧島も受け身になった時のもろさが目立ち、負け越し。先場所優勝した琴勝峰は上位に歯が立たず大敗。初優勝をきっかけに何かつかんだかと思ったけれど、結局何も変わっていなかった。
十両では新十両の朝白龍が優勝。柔らかい体と前に出る勢いが目立ち、今後も期待できる。関取に復帰した朝乃山も最後まで優勝争いに絡み、幕内復帰が待たれる。再入幕を確実にした錦富士も持ち味の動きの良い相撲を見せてくれた。
今場所は横綱が常に場所を引っ張るという理想的な形になり、また琴櫻が大関として横綱豊昇龍に勝ち、休場したことで大の里のリズムを狂わせるなど存在感を示した。また、大関昇進を賭けた若隆景がそのプレッシャーにもろにつぶされたことなどを考えても、横綱と大関の勝ちというものをはっきりと見せてくれた。非常に意味のある、そして面白い場所だったと言える。
元幕内の水戸龍が引退。入門時は大きな期待がかけられていたが、勝負にかける欲が今一つ感じられず、十両が定位置になるなど、期待を裏切られてしまった。それでもその巨体が生かされた時は、アマチュア時代の強さを彷彿とさせた。本人は錦戸部屋に入ってよかったと会見で言っていたが、力士の数も少なく稽古相手にも恵まれなかったことが大成しなかった原因のひとつでもあったのではないか。今後については未定とのことだが、第二の人生での活躍を祈っている。お疲れさまでした。
(2025年9月28日記)