ロンドン公演が大盛況のうちに幕を閉じ、一年納めの九州場所が始まる。大の里の連覇はなるか、豊昇龍が今場所こそ意地を見せるか。両横綱が今場所も中心となるだろう。ただ、海外公演のために普段よりもどの力士も稽古量が少なめなだけに、波乱も起きやすいのではないかと見ている。また、怪我で先場所途中休場しロンドン公演にも不参加だった琴櫻の調子も気になるところ。
そんな中で、注目したいのが安青錦だ。先場所は小結で11勝をあげ、今場所は新関脇。技術面ではしっかりしたものを持っているし、大きな怪我も今のところなく、優勝争いを経験したことで精神面でも鍛えられてきている。審判部は大関昇進については新三役だった先場所を起点としているが、もし優勝したとしたら、大関の声もかかるかもしれない。現状、大関は琴櫻のみ。西の大関は横綱の豊昇龍が「横綱大関」として番付に載る。協会としてはひと場所でも早く西大関を誕生させたいだろう。先場所は若隆景がチャンスだったが、負け越してしまった。今一番大関に近いのは安青錦だ。日刊スポーツでもと横綱若乃花の花田虎上さんと対談しているのを読んだけれども、かなりしっかりとした考え方をしていることがよく分かった。安青錦の快進撃はどこまで続くのか、今場所の活躍が楽しみである。関脇に復帰した王鵬がどこまで意欲的な相撲を取るかにも注目したい。
幕内上位では新三役を狙える筆頭に伯桜鵬が上がってきた。じわじわと番付を上げてきているが、序盤で上位とあたるところでどれくらい白星を積み重ねられるか。草野改め義の富士は前頭五枚目。先場所は少し壁に当たった感じだったが、改名を機に勢いを取り戻すか期待したい。小結の高安や、玉鷲らベテラン勢の活躍も楽しみだ。十両では先場所活躍した朝白龍や三田、藤青雲が新入幕をねらう位置にいる。新十両の五島改め藤凌駕、長村改め日向丸(ひむかまる)がどこまで通用するかも見ものだ。
とにかく今場所の目玉は安青錦。その快進撃がどこまで続くかに注目したい。
もと関脇の宝富士が引退。左四つの型を持った力士で、左を差せた時の強さが記憶に強く残っている。敢闘賞1回のみという、どちらかというと地味な力士だったが、最近は突き押しの力士が多い中、四つ相撲の型を持ち、長く幕内をつとめた実力者だった。色白で、愛称は「角界のマツコ」。容貌からつけられたものだが、別に毒舌だったわけではない。今後は年寄桐山として後進の育成にあたる。型を持った四つ相撲の力士を育ててほしい。
もと小結の遠藤が引退。幕下付け出しでデビューした時の衝撃は忘れられない。すでに完成された相撲を取っていた。幕内には一気に駆け上がり、美男力士として女性ファンも多かった。八百長問題などで人気の落ちていた相撲界に、颯爽と現れたスター力士で、協会もその人気を利用し、女性ファンをお姫様抱っこさせる企画を立てたりした。その分、やっかみも多かったのだろう、各力士は遠藤戦となると目の色を変えて勝ちにいっていた。怪我をしてもめったにサポーターなどはつけず、インタビューでも口数は少なく、昭和の力士を思わせる力士だったが、度重なる怪我でなんとか小結まで昇進したが、そこから上にはあがらずに力士人生を閉じることになった。その相撲のうまさ、両手をつくきれいな立ち合いなど、さらに上位を目指せる大器だっただけに、あまりにも人気が出過ぎたために実力を発揮する前に協会が看板力士にしてしまったのが裏目に出てしまったのかもしれない。しかし、スター力士として君臨するだけの素質があったのは事実。それだけに残念でならない。今後は年寄北陣として後進の育成にあたる。追手風部屋には壁を突き破れない有望力士が多いので、その経験を生かした指導を期待したい。
両力士とも、お疲れさまでした。
(2025年11月8日記)